「大学院で数論幾何を勉強したいけど学部生のうちから使える教科書が知りたい」、「大学院で数論幾何を研究しているけどおすすめの参考書はないかな?」
こんな疑問にお答えします。
数論幾何を勉強するのに必要な予備知識
数論幾何は、数学の中でも多くの予備知識が必要な分野と言われています。
具体的には、以下のような知識が必要となります。
数論幾何の予備知識
・代数幾何(特に、スキーム論とコホモロジー論)
・可換環論
・ホモロジー代数
・圏論
・複素関数論
・整数論(類体論、特に局所類体論)
・位相幾何
・微分幾何
などなど。
もちろん、これらを全てしっかりと理解して習得しているのに越したことはないのですが、それは天才レベルの人じゃないとなかなか難しいのが現実です。
これらの予備知識に関しては、大学院で数論幾何を勉強していた僕の意見で言うと、必要なタイミングで徐々に勉強していけばいいかと思います。
とはいえ、最低限押さえておかないと教科書の1ページ目から何もわからないと言うことになってしまうので、以下は勉強が必要です。
数論幾何を勉強を始めるための最低限の知識
・学部レベルの微積分と線形代数
・学部レベルの複素関数論
・学部レベルの群・環・体論(だいたい、ガロア理論まで)
・圏論の初歩レベル少し(種々の関手の性質、米田の補題、アーベル圏とかその辺り)
・可換環論少し(局所化、完備化、次元定理、中山の補題とかその辺り)
これに加えて、まずはスキーム論とコホモロジー論を勉強するのがスタンダードな勉強方法です。
数論幾何の教科書のおすすめ‖和書編
日本語の教科書で数論幾何の勉強におすすめのものをご紹介します。
14日間でわかる代数幾何学事始
数論幾何の道具となる代数幾何について、線形代数や位相幾何などの初歩的な話から始めて14日間で代数幾何の入り口=スキーム論まで到達できます。
本格的な数論幾何の入門の前に、代数幾何のバックグラウンドをサクッと身につけたい方におすすめです。
Atiyah‐MacDonald 可換代数入門
代数幾何、数論幾何で基礎知識になる可換代数に関する必要知識をサクッと身につけられる教科書です。
界隈では”アティマク”と呼ばれ昔から親しまれている教科書です。非常に薄く内容が濃い教科書なので、独学する際は身近に質問できる人がいるといいかもしれません。
演習問題が非常に豊富で、この演習問題を含めてこの本の良さなので演習問題もしっかり解きましょう。
ガウスの数論世界をゆく: 正多角形の作図から相互法則・数論幾何へ (数学書房選書)
著者の栗原将人先生は、世界的に有名な岩澤理論の第一人者で、この本は栗原先生の気迫が感じられる内容となっています。
扱っているのは、「ガウス周期」と呼ばれる数論に位置するトピックですが、高校生レベルの知識から初めて一歩一歩解説してくれています。
平方剰余の相互法則から類対論の触りなど数論幾何の初歩的な部分までを案内してくれる良書です。
数学の現在 i
数論幾何の最前線にいる研究者が、初心者にもわかりやすく最新の研究成果などについて紹介した本です。
教科書というより、読み物に近いですが、代数幾何、数論幾何、整数論など関連するトピックについての知見を得ることができます。
数論幾何の勉強は大変ですが、こういった本を読んでモチベーションをあげるのも大切だと思います。
3巻シリーズなので、残りの2巻も合わせておすすめです。
数論幾何の教科書のおすすめ‖洋書編
数論幾何の和書に関しては、あまり種類が多くないのが現状です。本格的な勉強をするためには、洋書の教科書の購入が必須になります。
Algebraic Geometry (Graduate Texts in Mathematics. 52)
スキーム論のド定番教科書で数論幾何を勉強するなら必携です。数論幾何、代数幾何の研究者の多くはこの本でスキーム論を勉強したはずです。僕も学部4年の時にはこの本でスキーム論を勉強しました。
スキーム論の部分も勉強になりますが、特に第3章のコホモロジー論が非常にうまくかけていると評判になっています。
欠点としては、多くの重要な概念を練習問題に投げてしまっているところでしょうか。ネットで探せば演習問題の解答も出てくるので独学できるはず。
Algebraic Geometry And Arithmetic Curves (Oxford Graduate Texts in Mathematics)
上のハーツホーンの教科書の現代版です。
ハーツホーンの教科書ほど行間が空いていないため、初学者はこちらの方がおすすめです。
特に、スキーム論に関してはこちらの方が丁寧で読みやすくなっています。
欠点としては、コホモロジーの扱いがチェックコホモロジーのみの定義となっており、導来関手を用いた定義を勉強できないのでそこは上で紹介したハーツホーンの教科書で補う必要があります。
Algebraic Number Theory (Grundlehren der mathematischen Wissenschaften)
代数的整数論の定番教科書、通称「ノイキルヒ」です。
代数的整数論に関することなら大抵書いてあります。数論幾何的な応用を視野に入れて書いたと序文にもある通り、付値環やスキーム論、基本群の表現、遠アーベル幾何についてなど数論幾何的なトピックが盛りだくさんの本です。
めちゃくちゃ分厚いので通読するというよりかは、その都度トピックを絞って読むスタイルがおすすめです。
The Arithmetic of Elliptic Curves (Graduate Texts in Mathematics)
通称「AEC」と呼ばれる数論幾何で主要な研究対象である楕円曲線についての標準的な教科書です。
論文などでは、楕円曲線の知識は数論幾何では既知としていることが多いので、この本で勉強しておきましょう。
Mordell-Weilの定理がこの本のゴールなのでそこまでしっかり読むことをおすすめします。
Local Fields (Graduate Texts in Mathematics)
Serreによる局所類体論の標準的な教科書です。
前半の付値論の部分がかったるい印象を受けますが、後半にいくにつれて楽しく読めます。
適度に誤植や行間、Serre特有の読みづらさ(読みやすさ?)があるので、難易度としては少し高め。
Introduction to Étale Cohomology (Universitext)
数論幾何で重要な道具立てであるエタールコホモロジーについての入門的な教科書です。
数論幾何では、与えられたスキームに対してそのガロア表現を考えることがしばしばありますが、その際に使うのがエタールコホモロジーの理論です(もちろん、他にもたくさんの使い方をします)。
エタールコホモロジーについて、基本的な事項をとりあえず勉強できる数少ない教科書なので読んでみることをおすすめします。
まとめ
数論幾何に限らず、数学の勉強はなかなか大変です。
ここで紹介した教科書はどれもスタンダードなものばかりなので、ある意味これらをしっかりと読み込めば数論幾何を研究している人たちの共通知識みたいのが得られます。
共通言語がわかると、論文などを読んでいて多少知識がない話でもなんとなく理解できるようになってきます。
まずは、ここで紹介した教科書から数論幾何の勉強をはじめてみてはいかがでしょうか。