解いたら1億円!数学の7つの未解決問題、「ミレニアム懸賞問題」をわかりやすく解説


「数学には懸賞金が掛けられた問題があるって聞いたけどどんな問題だろう?」「ミレニアム懸賞問題って解決するとどうなるの?」

こんな疑問にお答えします。

数学には、「ミレニアム懸賞問題」と呼ばれる懸賞金が掛けられた7つの未解決問題が存在します。

数学の中でも、重要な意味合いを持つものとして解決が希望されていますが、非常に難しい問題であることで有名です。

今回は、大学院で数学の研究をしていた僕が、初心者にもなるべくわかりやすく「ミレニアム懸賞問題」とはどんなものかについてご紹介します。

「ミレニアム懸賞問題」とは?

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「ミレニアム懸賞問題」とは、アメリカのマサチューセッツ州にあるクレイ数学研究所という非営利組織が2000年に発表した懸賞金が掛けられた数学の7つの未解決問題のことです。

懸賞金額は、1つの問題に対して100万ドル(日本円でおよそ1億円)で、2018年現在、1つだけ解決がされています。

個別の問題については、この後詳しく解説しますが、賞金を獲得するためには、単に自分で解けたというだけではなく、論文を発表し、査読(=専門家による論文のチェック)を経て、数学界に正しいことが広く認められる必要があります。

ミレニアム懸賞問題の内、「ポアンカレ予想」と呼ばれるものは、2002年〜2003年にかけてロシアの数学者グレゴリー・ペレルマンによって証明がされ、2010年に解決したことが発表されました。現在、残り6つの問題が未解決問題として残っています。

ミレニアム懸賞問題一覧


それでは、実際にクレイ研究所が発表しているミレニアム懸賞問題7つをまずは、一覧でご紹介します。

数学用語で一般の方には、意味不明のものも多く出てきますが、まずは気にしないで「これがミレニアム懸賞問題か〜」くらいの気持ちで見てください。

※実際、僕でも正確に主張を理解できないものもあるので安心してください(笑)。

ヤン=ミルズ方程式と質量ギャップ問題(Yang-Mills and Mass Gap)

任意のコンパクトな単純ゲージ群 G に対して、非自明な量子ヤン・ミルズ理論が ‘R4 上に存在し、質量ギャップ Δ > 0 を持つことを証明せよ。

リーマン予想(Riemann’s Hypothesis)

リーマンゼータ関数 ζ(s) の非自明な零点 s は全て、実部が 1/2 の直線上に存在する。

P≠NP問題 (P vs NP Problem)

計算複雑性理論(計算量理論)におけるクラスPとクラスNPが等しくない。

ナビエ–ストークス方程式の解の存在と滑らかさ (Navier–Stokes Equation)

3次元空間と(1次元の)時間の中で、初期速度を与えると、ナビエ–ストークス方程式の解となる速度ベクトル場と圧力のスカラー場が存在して、双方とも滑らかで大域的に定義されるか。

ホッジ予想 (Hodge Conjecture)

複素解析多様体のあるホモロジー類は、代数的なド・ラームコホモロジー類であろう、つまり、部分多様体のホモロジー類のポアンカレ双対の和として表されるようなド・ラームコホモロジー類であろう。

ポアンカレ予想 (Poincaré Conjecture)

単連結な3次元閉多様体は3次元球面S3に同相である。

バーチ・スウィンナートン=ダイアー予想 (BSD予想、Birch and Swinnerton-Dyer Conjecture)

楕円曲線E上の有理点と無限遠点Oのなす有限生成アーベル群の階数(ランク)が、EのL関数 L(E, s) のs=1における零点の位数と一致する。

上記がミレニアム懸賞問題として発表されている7つの未解決問題になります。

僕自身は、大学院で数論幾何と呼ばれる数学の分野を研究していたので、それに属する「リーマン予想」、「ホッジ予想」、「バーチ・スウィンナートン=ダイアー予想」の主張は理解できますが、そのほかの問題に関しては正確な意味を理解できておらず、ザックリとしたイメージでしか問題を捉えられていません。

ミレニアム懸賞問題の難易度って?


ミレニアム懸賞問題は、どれも数学の中でも群を抜いた難解な問題ですが、あくまで一般の方が問題の意味を理解しようとした時の難易度をご紹介します。

比較的簡単なもの

ここで言う「比較的簡単」というのは、「主張の雰囲気をつかむだけなら他の問題よりはマシ」というレベルの意味です。

問題の主張を表面的に理解する難易度と実際に解く難易度は比例しないことに注意してください。

リーマン予想

ゼータ関数の零点(=その関数の値が0になる点)の分布に関する予想です。

予想の意味を理解するだけなら高校で習う複素数平面を知っていれば簡単です。ただし,ゼータ関数が複素数の範囲でどう定義されるかをきちんと理解するには解析接続(大学2〜3年レベル)の知識が必要です。

リーマン予想の主張は、ものすごく大雑把に言ってしまえば、「ゼータ関数のグラフを複素平面上で書いたら、ゼータ関数の値=0になるような点は、全て実部が1/2になるだろう」と言うものです。

P≠NP問題

「P」と「NP」は、それぞれ計算複雑性理論で登場する計算量を表すクラス(=集合みたいなもの)です。このPクラスとNPクラスが等しくないであろうと言う予想がこのP≠NP問題です。

頑張ればなんとか理解できそうなもの

ポアンカレ予想

位相幾何学と呼ばれる分野に属する問題です。予想の中に現れる「多様体」とは、形をグニャグニャと変えられるゴムボールのような図形のことです。

「単連結」とは、この図形に「穴」がない(=ドーナツみたいな形になってない)と言うことを意味しています。つまり、ポアンカレ予想とは、もう少し簡単に言い換えると、「穴の空いてない形が自由に変えられる三次元の図形は、”適切な変形”をすると三次元の球面と同じものと思える」という風に言い換えることができます。

このポアンカレ予想だけは、先に紹介した通りグレゴリー・ペレルマンによって証明がされ、正しいことがわかっています。

ちなみに、ペレルマンは、直接このポアンカレ予想を解決したわけではなく、それよりももっと一般化された「サーストンの幾何化予想」と呼ばれる予想を解決し、その系としてこのポアンカレ予想を解決するという離れ業をやってのけたことで、当時の数学界に大きな衝撃を与えました。

ナビエ–ストークス方程式の解の存在と滑らかさ

流体力学(=液体や気体の運動を研究する)の分野での基本方程式であるナビエ–ストークス方程式という複雑な微分方程式が「それなりに性質のよい解」を持つかどうか判定せよという問題です。

主張の理解には専門の勉強を必要とするもの

バーチ・スウィンナートン–ダイアー予想(BSD予想)

数論の分野における未解決問題です。

主張を無理やり簡単にイメージだけ伝えるとすれば、「同じ楕円曲線(図形)から作られたアーベル群という代数的な対象と、L関数と呼ばれる解析的な対象に密接な関連性があるだろう」と言えます。

代数の世界と解析の世界を橋渡ししてくれる予想として、数論の分野では非常に重要な問題と考えられています。

ホッジ予想

主に代数幾何学に属する問題です。

主張に出てくる用語は真に代数幾何、数論幾何のもので、ここではイメージを解説することは難しいです。

ヤン-ミルズ方程式と質量ギャップ問題

量子色力学に属する問題です。僕も何を言っているのかわかりません

もっとも難しい問題は?


この7つ(6つ)の問題の中で、本質的にもっとも難しいと考えられている問題は、おそらく「リーマン予想」です。

問題の難しさを一概に比べることはできませんが、その問題がどれくらいの間未解決であるかをその問題の難易度として定義すれば、「リーマン予想」がそれになります。

「リーマン予想」はドイツの数学者ベルンハルト・リーマンによって1859年に提唱されて以来、約150年間もの間未解決です。

リーマン予想の主題になっているゼータ関数が、解析的に定義される関数であることから長いこと解析的整数論による解決が試みられていましたが、最近では、保型形式論や量子論、数論幾何の枠組みでリーマン予想を捉えるのがスタンダードになりつつあります。

また、日本の黒川信重、小山信也の両数学者によって、F1代数(あるいは、絶対数学)と呼ばれる新しい数学によるアプローチが活発に行われています。

ミレニアム懸賞問題を理解するためのおすすめの書籍

最後に、ミレニアム懸賞問題をより深く理解するためにおすすめの書籍をご紹介します。

興奮する数学 ―世界を沸かせる7つの未解決問題

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ミレニアム懸賞問題を扱った一般向けの解説書です。数学の専門家でなくても、数学に興味がある人が理解できるようにミレニアム懸賞問題を解説してくれています。

この記事よりも一歩踏み込んだ全体像を掴みたい方におすすめです。

数学七つの未解決問題―あなたも100万ドルにチャレンジしよう!

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ミレニアム懸賞問題のそれぞれに、その分野の専門家による解説を書いてもらった物を一つにまとめた書籍です。

専門家による深い解説や予想解決に向けた取り組みなどを知ることができる絶好の書籍です。

数学者による解説のため、多少の数学的知識は必要ですがそれでも読み物としての面白さもあるのでぜひ読んでもらいたいです。

数学ガール/ポアンカレ予想 (「数学ガール」シリーズ6)

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数学×青春小説をテーマにした「数学ガールシリーズ」の最新刊です。

ミレニアム懸賞問題のうち、唯一解決がされている「ポアンカレ予想」に焦点を当てたこの書籍では、筆者自らがポアンカレ予想の証明を理解していく過程をそのまま、小説の主人公に託して展開してくれます。

平易なレベルからスタートしていつの間にか最高峰まで読者を案内する筆者の技量は見事です。

ちなみに、「リーマン予想」についてはシリーズ第1巻が詳しいのでそちらも合わせてどうぞ。

100年の難問はなぜ解けたのか―天才数学者の光と影 (新潮文庫)

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「ポアンカレ予想」を解決したグレゴリー・ペレルマンの姿に迫るノンフィクション小説です。

実は、ペレルマンは「ポアンカレ予想」の解決に成功したにも関わらず、賞金の100万ドルの受け取りを辞退しています。

そんな謎のベールに包まれた孤高の数学者の姿に迫る本書は数学的知識を必要とせずに、「数学の難問に挑むとはどう言うことか」ということを読者に見せてくれる稀有な存在です。

ぜひ、一読をおすすめします。

素数に憑かれた人たち ~リーマン予想への挑戦~

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「リーマン予想」の証明に取り憑かれた数々の数学者たちの姿をえがいた小説です。

素数の分布と深く関わると言われているリーマン予想には、数学者を虜にする”不思議な力”があるということを専門家でない読者にわかりやすく見せてくる書籍です。

「リーマン予想」に対して取り組んできた数学者の紹介を中心に、素数を知る魅力、取り組みの変遷などを、多くのエピソードを織り込みながら、非数学的な観点をベースに著述した数学ドラマを堪能できます。