整数論・数論の教科書で「名著」と呼ばれるものをご紹介


「整数論に興味があるけど、おすすめの本が知りたいな」「整数論を勉強しているのだけど、これだけは読んでおけ!みたいな名著が知りたいな」

こんな疑問にお答えします。

大学、大学院と数学(特に、数論)に関わってきた僕が整数論・数論の「名著」をご紹介します。

数学の世界には、整数論に限らず様々な分野で「これだけは絶対読んでおいたほうがいい」と言われる教科書が存在します。

これらはいわゆる「名著」と呼ばれ、数学の理論の創始者が著したものや長く教科書として愛されているものなどがあります。

まずは、本の紹介の前に少しだけ数論の小話をご紹介。

「数論」と「整数論」の違い


「数論」と「整数論」の違いですが、基本的にはほぼ同じ意味で日本語では使われています。

英語では、「number theory」あるいは、「arithmetic」と言います。

個人的なイメージですが、数論といった場合の方がより広い意味合いで使われている印象です。

逆に、整数論と言った場合は、何か特定のテーマの中で使われていることが多いです。

「数論」は数学の女王


数論にまつわる話で、有名なものとして以下の言葉が有名です。

「数学は科学の女王であり、数論は数学の女王」

これは、19世紀最大の数学者カール・フリードリヒ・ガウスが残したと言われている言葉で、数論の美しさを端的に表した言葉だと思います。

数論は、(特にガウスの時代には)初等的な証明を用いてはっと驚くような結果が得られることが多く、それゆえに現代になってもその数論の素朴な魅力に惹きつけられる人が多いようです。

それに関連して、数論関係では名著と言われる教科書も多くあり、長く読み継がれているものも少なくありません。

数論の名著をご紹介‖和書編

それでは、整数論・数論の名著をご紹介します。

僕自身、全て読んだことがあり、一度は皆さんに読んでもらいたいものを集めました。

ベーシックなものから少しマニアックなものまでをご紹介。気になる本があったらぜひ、手にとってみてください。

初等整数論講義 第2版 ‖ 高木 貞治 著

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日本が誇る世界的な数学者、高木 貞治による初等整数論の教科書です。整数論の教科書で名著として挙げない人はいないくらい有名です。

扱っている内容は、初等整数論・連分数・二元二次不定方程式・二次体の整数・二次体の整数論とタイトル通り「初等的」なものですが、記述の美しさや理論の本質を読者に伝える文章は見事の一言に尽きます。

数学を学ぶ者であれば、一度は目を通すべき名著の中の名著です。

姉妹本の「代数学講義」、「解析概論」も同じく素晴らしく「高木三部作」と呼ばれています。

数論序説 ‖ 小野 孝 著

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同じく日本人数学者による、数論の入門的教科書です。

初等整数論から少し踏み込んで、素イデアルの分解を示たのち、ヒルベルトの理論、2次体と円分体の理論と数論の一つの金字塔である「類対論」の手前までを学ぶことができます。

後半部分では、解析的整数論に解説が割かれており「ゼータ関数」や「類数公式」といった解析的整数論のハイライトを楽しむことができます。

全体を通して、著者の小野先生のテイストが活かされた数学書と言えます。

初学者が読むには難易度が高めですが、ある程度数学書を読み漁ったあとであればじっくりと読み込むことで理解できると思います。

局所類体論 ‖ 岩澤 健吉 著

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現代の数論でも中心的な研究分野である「岩澤理論」を創始した歴史的な数学者、岩澤 健吉による局所類体論の教科書です。

局所類体論はコホモロジーを用いたアプローチが現在では主流ですが、この本では代数的整数論を用いたアプローチが取られています。

学部程度の代数学、位相空間論、位相群論の知識だけを仮定して局所類体論を解説する岩澤の実力がまざまざとみれる名著です。

現代数論の主要分野「岩澤理論」を作り上げた数学者による叙述は圧巻。

代数的整数論入門 上・下‖藤崎 源次郎 著

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日本語の代数的整数論の教科書といったらこれというくらいポピュラーな教科書です。

代数的整数論は、イデアルや位相群、代数体などおよそ現代数論の基本的な道具立のほとんどを提供する数論の中心的分野です。

この教科書は上下巻に分かれており、上巻では主に群・環・体といった学部レベルの基本事項からはじめて、主に代数体の理論の解説がなされています。

下巻では、円分体の理論、特にクンマー理論が解説されており、代数的整数論の一通りの知識を得ることができます。

この本を読み終えたら、同じく藤崎先生による「体とガロア理論」に進むといいかと思います。

整数論1: 初等整数論からp進数へ‖雪江 明彦 著

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比較的新しい教科書の中からの一冊として、雪江先生による「整数論シリーズ」をご紹介します。

全3巻の整数論シリーズの教科書で、第1巻では、初等整数論から始め代数的整数とp進数の基礎までを学ぶことができます。

行間がほとんどなく、初学者でもゆっくりと読んでいけば理解できるようになっています。

また、演習問題も豊富&解答尽きなので独学にもぴったりの教科書です。

雪江先生による「代数学シリーズ」も合わせて読むとおよそ学部レベルの代数学・整数論はマスターできます。

数論の名著をご紹介‖洋書編

続いて、洋書の名著をご紹介します。

本格的に数論を学んでいくのであれば、洋書の教科書にも触れておくべきでしょう。

Basic Number Theory (Classics in Mathematics)‖Andre Weil 著

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合同ゼータ関数のリーマン予想類似である「Weil予想」で有名な20世紀数学界の巨人、Andre Weilによる類体論の教科書です。

タイトルに「Basic」とありますが、数論における「Basic=基礎的」な内容を扱ったという意味で、決して簡単という意味ではないのでご注意を。

内容はすでに古くなっている部分もありますが、それでも“Weilの数学”を堪能するという意味ではぜひ、一度は読んでもらいたい名著です。

20世紀の数学の礎を作った数学者集団「ブルバキ」の初期メンバーとして活躍したWeilの著作としてはもっとも有名な作品です。

Algebraic Number Theory‖John William Scott Cassels, Albrecht Frhlich 編

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大学で類体論の教科書といったら、この本というくらい人気の教科書です。

一人の著者によるものではなく、類体論関連知識をトピックごとに異なる著者が書いたものを一冊にまとめたものです。

著者がバラバラなので記述につながりがなかったり、スタイルが統一されていないので苦手な人は苦手かも。

ただ、内容は超一流の数学者による一級品に仕上がっているので、数論を本格的にやるのであれば読み込むべき名著です。

Algebraic Theory of Numbers: Translated from the French by Allan J. Silberger (Dover Books on Mathematics)‖Pierre Samuel 著

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Samuelによる密度の濃い代数的整数論の教科書です。

ペーパーバックのペラペラな教科書ですが、初等的な環論の知識からスタートしてヒルベルトの分岐理論の入り口までをカバーしています。

学部レベルの代数的整数論をサクッと抑えて、代数幾何などの勉強をしたい人向け。

薄い教科書ですが、その分行間が空いているので見た目と違って難易度は高めです。

とはいえ、最短で代数的整数論のエッセンスを学ぶことのできる名著と言えます。

Galois Theory (Pure and Applied Mathematics: A Wiley Series of Texts, Monographs and Tracts)‖David A. Cox 著

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Coxによるガロア理論の教科書です。600ページを超える大著ですが、扱っている内容はそこまで難しいものではありません。

群・環・体の基本事項からスタートして、多項式環の説明やイデアルなど順序立てて説明がなされているので初学者でもつまづくことなく読み進められます。

単に、理論としてのガロア理論を説明するに留まらず、折り紙への応用など横道の話も多く教科書とは思えないくらい楽しく読めるのが魅力です。

各節の終わりには「Historical Notes」が記載されており、理論の歴史的背景も学ぶことができます。

Local Fields (Graduate Texts in Mathematics) ‖ J. P. Serre 著

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局所類体論の名著です。上で紹介した岩澤による局所類体論と違い、現代的なコホモロジー理論を用いたアプローチで解説をしています。

数論を専攻する人なら確実に読むくらいにメジャーな教科書で、Serre特有の洗練された記述が素晴らしいです。

原著はフランス語ですが、この英訳版が日本ではメジャー。

Serreは教科書を書くのがうまいと言われていますが、この「Local Fields」はその中でも群を抜いた完成度を誇っています。

ぜひ、一読をするべき名著です。

まとめ


数論・整数論は数学の中でも人気の分野で、理論そのものにロマンのある分野です。

それ故に昔からたくさんの名著と呼ばれる教科書が存在します。

また、数論の分野は日本人数学者が多く活躍しているのも特徴で、彼らが著した教科書は、それぞれの”数学スタイル”が感じられるものとなっています。

ぜひ、自身で色々な教科書を手にとってみて数論の世界を進んでいってもらえたら嬉しいです。